風の市兵衛(弐)修羅の契り(辻堂魁)

文庫本カバーより

 前に読んでから時間があいたので、小弥太と織江という子供たちを市兵衛が引き取るに至った理由を忘れてしまっていた。子供たちの父親が市兵衛を襲う刺客となり、逆に市兵衛に切られてしまうという関りであったのがわかる。家族が増えたので、新住所に引っ越しをする。そこに恐らく先回知り合いになった「文六とお糸」の岡っ引き夫婦が、引っ越しのお祝いを持って訪れる。風の市兵衛シリーズでは、冒頭に、殺人事件が起こり、その後に市兵衛がその事件に絡んで解決を行う、というパターンがよくとられる。今回はその「文六とお糸」を殺めるように「多見蔵」という裏家業の人間が依頼するところから始まる。加害者と被害者がすぐ登場するので、わかりやすくてよい。 今回の市兵衛の奉公先は、大久保東馬家。私の記憶違いでなければ、初めてあまり感じの良くない主人に仕えることになる。大抵は奉公先には、困った問題を抱えた、良き人たちがいて、その一家の苦境を助ける筋書きがほとんどだったのだが。この感じの悪い大久保家の人たちから、度々侮蔑を市兵衛は受ける。この家の用人の大木駒五郎が黒幕で何か画策をしているのがわかる。私ならさっさとこんな家には暇をだしてもらうが、市兵衛はそれをせず、密かに大木の素性を探る。しかし、大木の讒言により、市兵衛は大久保家から暇を出され、巻末で大久保家は、今でいう破産になってしまった、と知らされる。裏家業の多見蔵は仲の良かった刺客を切られる原因になった、「文六とお糸」と市兵衛に深い恨みを抱き、殺害を依頼したのがわかってくる。巻末のクライマックスの斬り合いで、市兵衛との直接対決で倒される。市兵衛が引き取って面倒を見ていた、「小弥太と織江」にも市兵衛が父親を切った人、ということが明らかになる。「小弥太と織江」の叔父さんが、消息を頼りに市兵衛を訪ね、仔細を知り、結局は国元に連れられて行く。父親になる覚悟を決めて、引っ越しも行い、かいがいしく世話をした市兵衛だが、さみしく一人暮らしに戻ることになる。市兵衛も40歳になったので、嫁とりの話も又出てくるだろうが、恐らくずっと独り身を続ける気がする。市兵衛がそこのところをどう考えているのかは全く出てこないので、わからないんだけれども。

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