浪人の生涯 [詭計の理(上田秀人)]より

 刺客を頼まれた浪人が、その過去を聞かれ、<上役の不正に気付き、小金をもらうことを拒否したために、上役に横領の濡れぎぬをきせられて藩を追われた>事を語る。その時に「しゃべるつもりはなかった。ただ己は仲間ではないという自負を、免罪を持ちたいがために、金を受け取らなかった。そうしたら、わが藩の金を横領したと上司が横目付に訴え出てな」と告げる。襲撃は失敗し、彼はその場で命を落とす。 かつては、正義感を持っていた人間が、策略にはまり藩を抜け、食うに困って刺客道に入る。請け負ったからには必ずやり遂げようと律義に頑張るも、結局は主人公の城見亨に刺殺されるという話。小説上の人物の架空の話だろうが、なぜかこの浪人に同情してしまう。 一方、同じく刺客業をしていた志村という浪人、足を洗って城見亨と知り合い、何故かうまがあって、亨に色々と仕事を含め世の中の事を教える。彼は慧眼で、亨を評して「あれではとてもお嬢(勤め先の娘で亨の婚約者)を御せまい。尻に敷かれるのは目に見えている。まあ、ああいった気性だから何とかしてやりたくなるのだからな」 とつぶやく。同じ刺客業をし、性格ももとは真面目であった二人が、出会った人によって、人生の明暗が分かれるものだなあ、と気づかされる。

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