ものを頂いた例をする。初めての人にちゃんとする
突然、縁があった人の子供二人を引き取るとことになった市兵衛。この主人公の人柄どおり子供たちに優しく接する。 引越し祝いを持参した友人へ、「小弥太、織江、宰領屋のご主人の矢藤太さんが、この店に引っ越せるよう世話をしてくれたのだ。お礼を言うんだよ」市兵衛は織江を膝にのせていて、小弥太は膝の傍らにいる。「矢藤太さんありがとうございます」「矢藤太さんありがとう」小弥太と織江が懸命に言った。 同じく引越し祝いをもらった文六夫婦に、「小弥太、織江、文六親分とみなさんから引っ越しの祝いを、沢山いただいた。お礼を言わないとな」「文六親分、お糸姐さん、捨松さん…沢山の祝いの品をありがとうございます」小弥太、は一人ずつ名前をあげて大人びて言い、辞儀をして見せた。「お糸ちゃんありがとう」お糸の大きな腕に抱かれた織江が、お糸に話しかけるように言った。 友人の弥陀の介を紹介するとき、「小弥太、織江、このおじさんはな、私のお友達なのだ。顔は怖いが、心根の優しいおじさんなのだ。さあ、座って、おいでなさいませ、とご挨拶をするのだ」 ものを頂いた例をする。初めての人にちゃんとする、これだけの事だが、私の子供たちにもさせなかったし、私自身もできていない。こういうところで、人としての基本が形成されるんだろうな、と思う。江戸時代の武家では当然の事だったのだろうが、日本の民度をはかるその原点がこういうところにあるんだろう。