母がベッドで、「(死んでしまったら、)光司と別れるのが一番辛い」と言っていたのを思い出す。なぜそのとき「ほんまやなあ、僕も別れるのが辛いわ」の一言を言ってやれなかったのか? 常々、「早く死にたい、お父さんやお母さんに会いたい」と言っていたなかでのその言葉、それこそが母の本音だったに違いない。その気持ちに応えなかった、私は何て鈍感な不誠実な人間だろうと思う。お手伝いの斉藤のおばちゃんのときもそうだった。辞めると決まって、「別れるのがさびしい」と言ってくれたのに、私は「ふーん、そうなん。」位の態度しか示さなかった。母がおばちゃんへのあたりがきつくなり、私にこぼしたり、松美が「私がいるのが煙たいだろう」と言っていたのを思い出す。やめる理由を僕は知らなかったが、たぶん、これらのことがあったに違いない。